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東京高等裁判所 平成11年(ネ)6070号 判決 2000年11月30日

控訴人 清水實

右訴訟代理人弁護士 古閑孝

被控訴人 神奈川都市交通労働組合

右代表者執行委員長 今井征靖

右訴訟代理人弁護士 宇野峰雪

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は、控訴人に対し、六万三四四七円及びこれに対する平成一〇年一〇月二六日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

控訴棄却

第二事案の概要

本件は、被控訴人を脱退した控訴人が、被控訴人に対し、被控訴人に加入中にその組合規約に基づいて毎月一〇〇〇円ずつ積み立てた闘争資金の返還を求めている事案であり、被控訴人は、脱退による組合員資格喪失は闘争資金払戻事由に該当しない旨の組合規約を根拠に、返還時期が未到来であると主張してこれを争い、これに対し控訴人が、かかる規約は無効であると主張している。原審は、被控訴人主張の右規約を無効とすることはできないとして、控訴人の本件請求を棄却したため、控訴人がこれを不服として控訴したものである。

一  当事者双方の主張は、当審における主張を次のとおり付加するほかは、原判決書二頁八行目から同六頁七行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。

1  控訴人

闘争資金は、組合の経費支出のために拠出する組合費や資金カンパのように拠出した後は拠出者とのつながりが失われ拠出者に返還する必要がないものとは全くその性質を異にし、組合員たる資格を保有する間に限り、組合が所定の方法によって運用することを委託した組合員個人の積立預託としての性質をもつものであるから、組合員資格を喪失した事由が脱退であっても、組合員資格を喪失した組合員が承諾しない場合は組合員に返還すべきものであって、合理的理由もなく闘争資金の返還を制約している被控訴人の組合規約四二条二項(以下「本件規約条項」という。)は、憲法が保障する私有財産権を侵害するものであり、公序良俗に反し無効である。

2  被控訴人

控訴人の右主張は争う。闘争資金積立金は、組合がストライキ等の闘争時、組合員に会社から賃金が支払われず、あるいはカットされたような場合に備えて、組合員から預かり保管しているもので、組合員が退職すればその時点で清算するものとされているが、組合員でなくなっても会社に在籍している場合には、闘争による結果得られる利益を享受することや、組合の団結の維持の観点から、その清算・返還をどのようにするかは組合が規約をもって定めることができるのは当然であり、本件規約条項は公序良俗に反するものではない。

二  争点

本件の主要な争点は、具体的には、(1) 被控訴人の組合規約に基づいて本件規約条項を新設した改正手続が労組法五条二項九号に反することにより、本件規約条項は無効となるか、(2) 本件規約条項の内容は公序良俗に反するかの二点である。

第三当裁判所の判断

一  争点(1)について

当裁判所も、被控訴人の組合規約に基づいて本件規約条項を新設した改正手続が労組法五条二項九号に反することにより、本件規約条項が無効となるものではないと判断する。その理由は、原判決書七頁九行目から同一六頁二行目までの説示と同旨であるから、これを引用する。

二  争点(2)について

1  《証拠省略》によれば、被控訴人における闘争資金積立金の運用の実態について、次のとおり認められる。

(1) 闘争資金積立金は、被控訴人がストライキ等の闘争時、組合員に会社から賃金が支払われず、あるいはカットされたような場合に備えて、被控訴人が組合員から預かっているものである。

(2) 被控訴人は、右闘争資金積立金を、労働金庫に闘争資金であることを明示して預金し、労働金庫では、被控訴人の依頼により、各労働者ごとの積立金の額を明らかにして、毎年一回組合員に「一斉積立残高通知書」を発行して通知している。

(3) 被控訴人は、組合員約一〇〇〇名、一二支部からなる組織であり、ストライキなどは、普通、拠点の支部を決めて実施するが、そうした場合、それに必要とする資金は、在籍する組合員全員で負担するのを慣行としており、例えば、七支部の二四二名の組合員が参加して行われた平成五年四月九日における職場集会について、参加組合員が賃金からその時間に相当する分をカットされたり、年末の賞与からカットされたりした際も、同年一二月一一日開催の緊急執行委員会において、これを在籍する組合員全員の闘争資金積立金を使用してこれを補填することを決定し、具体的には、被控訴人が、労働金庫に対し、決定した補填合計額を一斉積立者の頭数で除した金額を右闘争資金積立金の個人別一斉積立金から引き下ろすように指示して、労働金庫にある被控訴人の闘争資金積立金口座から決定填補合計額を引き下ろし、右金員が各支部を通じて職場集会に参加した各組合員に交付されている。

2  右のような闘争資金積立金の運用の実態に照らすと、被控訴人の組合規約四二条一項に基づき被控訴人が組合員から徴収する闘争資金は、単純な預り金ではなく、労働条件を維持・発展させ、労働者の権利を守るという労働組合としての闘争・活動のための資金の引当金としての意味合いも保有しているものであると認められるところ、組合を脱退すれば直ちに闘争資金を返還すべきものとすると、闘争が行われることが決まってから組合を脱退することにより闘争資金積立金の負担を免れたり、闘争後賃金カットがなされる前に脱退することにより同様にその負担を免れたりすることができることになり、そうすると労働組合の団結の維持に対し不当な弊害を及ぼすことになることもあると考えられるのであって、脱退した組合員に対して直ちには闘争資金積立金を返還しないという取扱いをすることについては、合理的な理由がないとはいえない。前記のとおり、本件闘争資金は組合員一人について月額一〇〇〇円という決して高額なものではなく、また、本件規約条項は組合を脱退することにより闘争資金積立金の返還請求権が消滅することを定めたものではなく、単に、組合を脱退した時点では直ちに闘争資金の返還を受けることはできないことを定めているものにすぎず、脱退した組合員は、退職したり、管理職に昇格すれば、その時点では返還請求権を行使することができるものとされているのである。これらの事情を総合的に考えれば、脱退した組合員が組合を脱退した後も闘争によって得られる利益を現実に享受しているか否かについては検討するまでもなく、本件規約条項の内容が、憲法が保障する私有財産権を侵害するものであるとか、公序良俗に反するものであるということはできないといわなければならない。

この点についての控訴人の前記主張は採用することができない。

三  結論

よって、控訴人の本件請求を棄却した原判決は相当であって、本件控訴な理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法六七条、六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小川英明 裁判官 近藤壽邦 川口代志子)

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